メーカーによる音の違いの傾向

オーディオショウに一緒に行く友人からよく言われるのが、
「普段聴いているのよりも断然いいのはわかるけど、いいもの同士の違いが分かりにくい」
ということである。


しかしながら、これを単純明快に説明するのは難しい。
もし説明できるなら、オーディオがこれほど奥深い趣味となっていないだろうから。
でもまぁ僕の中で傾向みたいなものはあって、
少し解説を試みてみようと思う。

注目ポイント1:静寂

いわゆるS/N(SN比、信号対雑音比)のこと。
スピーカーにも言われることもあるが、基本的にはプレーヤーとかアンプによく使われる修飾である。
S/Nがよいものは、聴いていて静か、そして静から動への変化がよくわかるなど、一般的には「クリアー」と呼ばれるものに近い。(厳密には違うと思う)
S/Nが高いと、必然的にダイナミックレンジ(最高音と最低音の音量差)が広くなり、オーケストラの再生においては非常に重要な特性といえる。
メーカー例:アキュフェーズ(日本)
非常に透明感のある、S/Nの高い音。繊細だが、その分グイグイ鳴らすのが好きな人は好まない人もいるようである。精緻で洗練された音が逆に躍動感に欠ける、面白くないといった見方もできる。

注目ポイント2:質感

音質、という面では非常に大きなウェイトを占めるといっていい。
システム全体で構築する必要があるが、最終的な質感を決めるのは、個人的にはプレーヤーだと思ってる。
ピアノの鍵盤を叩く感覚やタッチの繊細さ、ヴァイオリンの弦を擦る感触など、
非常に細かい部分の表現力が高いとき、質感がいい、などという。
基本的にはS/Nと無関係ではないが、たぶんオーディオ機器を買う買わないの話に深く関わっているはず。
僕はこの質感の違いというものが、メーカー感によって(大きく、とは声を大にして言えないほど微妙だけど)異なっていると考えており、聴き分けのポイントとして重要視している。
メーカー例:FMアコースティクス
独特の質感を持つ。S/Nが高いとかではなく、甘いしっとりとしたシルキータッチの質感といったところか。生音とは鳴り方が違うように思われるけども、そのユニークな質感に魅了される人も多い。もっとキレのいい鳴り方を好む人には合わないか。

注目ポイント3:音場感

おんばかん、人によってはおんじょうかん、などと読む。
僕は物理系の人間なので、おんばの方がしっくり来るので、おんばかんと読む。
要するに音の広がりであったり奥行きであったり、さらには高さ方向であったりと、音が出る領域の広さを表す言葉である。
これはよく言われる定位(音像(音の発生源とその大きさ)の位置)と深く関わっている。
スピーカーやアンプによってかなり変化するパラメータであり、最終的にはこれもプレーヤーの問題ともなる。
空間感とも表現され、その言葉どおり、空間表現能力である。
スピーカー同士の間隔を広げると基本的に音場は広がるが、やりすぎると真ん中付近が痩せて聞こえる(音が細くなってしまう)という現象に陥ることもある。

メーカー例:オーディオマシーナ、ルーメンホワイト、イクリプスなど
最近ルーメンホワイトは作品を発表していないが、その空間感は特筆すべき。質感も含めて、僕のほぼ理想の音に近い。
オーディオマシーナは、ルーメンホワイトに比肩する空間表現力を持ちながら、バランスがよく、音の密度も高めで非常にクォリティの高い音。ピュアシステムはなんだかへんてこな格好をしているが・・・
イクリプスは、タイムドメイン理論に基づく卵型スピーカー。余計な音を一切出さない設計思想から作られた音は、かなり独特。いったんこれを聴くと、他のスピーカーの鳴り方を違った視点から見れるようになると思う。

注目ポイント4:密度

言葉どおり。しっかり中身が詰まった音がしているか、密度が低くて痩せて聴こえるか、そんな感じ。
気をつけておかないといけないのは、繊細な音のするオーディオ機器は、ちゃんと聴かないと、うっかりすると痩せているように聴こえてしまうこと。
神経を集中して聴くと、繊細さの中に質感を保っていて、密度感が高いかどうかなどが見えてくるようになる。
もちろん色んなオーディオ機器を聴くことによって経験を積めば、より相対的な評価が可能になる。
メーカー例:JBL
色々なシリーズはあるが、たとえばスタジオモニター系統の43**などのシリーズは濃密な音がする。躍動感もあるので明らかにジャズ向けと僕は思うが、今年聴いたやつはちょっと傾向が変わりつつあった。

注目ポイント5:躍動感

これもそのまま。まぁ聴いててノリがよかったり、ちょっと繊細さに欠けるけどもグイグイ引っ張ってくれる、聴いていて楽しい、などの感覚になる。クラシックも特に伸びやかなオーケストラを演奏したい場合、重要なファクターとなる。

メーカー例:JBL、クレル、など多数

注目ポイント6:輪郭

だんだんと説明が短くなってきたぞ。というよりも、関連が多いので少しずつ説明することが減ってきてるだけだが。
これも質感などとも関係するが、要するに音の隈取りってこと。
音像の輪郭が非常にハッキリしていて明瞭な場合、「輪郭強調型」などと言ったりする。
メーカー例:タオック
S/Nが高く、密度感が高い。だが逆に音のしなやかさと言う点ではちょっと欠ける感じのは、輪郭を少し鮮やかに描きすぎるところにあるのだろう。


とりあえず思いつく限り書いてみた。
まぁそんなもんなんだー、と軽く認識しておいて、また色んなメーカーの音を聴いていくとよいだろう。
だんだんと自分の頭の中にメーカー固有の音(あるいは、傾向)が蓄積されていき、いつか自分の基準を作ることができるようになると思う。