比較試聴について(2)

さて、今日は僕がいつも体験的に行っている比較試聴の方法を整理してみる。

  • 同じソースを使う(当然だね)
  • オーディオ機器をウオーミングアップさせておく
  • ボリュームを合わせる(ノブの位置ではなく感覚でよい)
  • 各ポイントに注意しながら聴く(下記は思いつく限りの例)
    • S/N(ダイナミックレンジがきちんと取れているか)
    • 解像度(細部まで細かく意識して追えるか)
    • 定位(空間の中の楽器・ボーカルの位置が明確か)
    • 音場感・空間感(音の広がり、奥行き、スケールが再現できているか)
    • 低域・中域・高域のバランス(低域と高域を目立たせるとよく聴こえがちなので注意)
    • 楽器の響き方・鳴り方
    • 質感・肌合い(バイオリンの弦を弓で弾くときの感触など)
    • 残響(ホールトーンの複雑微妙な響きが表現できているか)
    • 音のつながり(縦割り的に聴こえないか)
    • アタック音(スムーズかつ刺激的でないか)
  • 自分が聴きなれたソースとのイメージ比較(上記項目など)
  • 感情面の表現力(熱気、情熱)
  • 時間をかける(即断しない)

言葉に表現するとこんなものだけど、実際はもっと無意識的にやっていることもあると思う。これは別に新素材CDの比較試聴用というわけではなくオーディオ機器を選ぶ場合も同じことをしている。もっともオーディオ機器の場合は直感で選ぶ場合も結構多いが。

さぞ客観的に評価していると思われるだろうが、実際は恐ろしく主観的である。であっても、まったく恣意的なものではなくて、それを防ぐために「時間をかける」ということをしている。比較試聴において一番まずいのは即断である。少しだけ、曲の一部分だけ聴いてこちらの方がよい、といきなり決め付けてしまうのはよくない。それに時間をかけることで主観的なものが少しずつ蓄積され、いつの間にか頭の中に音のイメージが形成されていく。傾向がつかめてくるのである。例えば、「アキュフェーズの音」というものが僕の頭の中にはあって、新製品が出てくるたびにそれを思い出しながら聴くのである。そこで大きく印象が変わることはまずなく、もしあるとすればメーカーが大きく音作りを変えたときだけである。アキュフェーズは新製品であっても、S/Nが高く繊細な音をいつも感じさせる。ディナウディオのブースはいつ行ってもディナウディオの音である。それがコンパクトな2WAYであろうと、マルチウェイの大型システムであろうと同じ。メーカーとして音は一貫しているのが通例である。

僕の場合オーディオ歴が約10年近くあるので若年層としては割とベテランの域だと勝手に思っているが、50年以上もオーディオを続けている人もいて、そういう人は経験も豊富で視点も鋭い。音楽に対する知識や造詣が深い。きっと聴こえている音も違うのだろうなと思う。同じように、素人の人と僕が同じ音楽を聴いても、絶対に同じ音には聴こえていないはずである。比較するものがあるということは、自分の中に一定の基準(経験や年齢を重ねるごとに変わるが)を設けられているということである。実際は比較試聴も単純ではなくて、結局は最終的に人の主観に委ねられるのだから、客観性がなくても別段気にしなくていいと思う。

最後に、アキュフェーズの創始者・故 春日二郎氏が著書(非売品)の中で書いてあった言葉を紹介する。きっと多くのオーディオファンが体験的に感じていることではないだろうか。結局は、自宅に引き入れて聴きこんでいくのであるから、評価法として理にかなっていると思う。

(製品評価で、オープンテストか目隠しテストかの議論の中で)多数の人の主観が集まって客観性を帯びてくる。主観は一見ひ弱に見えても、多数の人の時間蓄積による評価は、目隠しに劣らない重要な意味を持っていると思います。(中略)さまざまなレベル・セッティングで、さまざまなソースにより、また、体調や感性の平均化された状態で比較、製品間の優劣を総合的に体感し、この方法で最終判断を下すことで大きな誤りはなかったと私は信じています。