比較試聴について(1)

最近、SHM(Super High Material)-CD、HQ(High Quality)CD、Blue-spec CDなど、新素材CDの台頭(というほどでもないかもしれないが)が著しい。ざっと書くと、SHM-CDとHQCDはともにより透明度の高い液晶用のポリカーボネート樹脂を使用しレーザー光の反射率の向上に努めている。HQCDの方は反射膜も特殊合金を使用しており、その点がSHM-CDとは異なっている。Blue-spec CDはBlue-ray Disc用に開発された高分子カーボネートを使用しレーザーカッティング精度を向上させ、よりジッターの発生しにくい正確なピット形成に力を注いだものである。いずれも高音質を主張しているが、SHM-CDとHQCDは安価なサンプラーを用意しており、その違いが明確に分かるとレコード会社は主張する。

そういったディスクの違いを判別すべく、まあ昔からやってはいるのだが最近は比較試聴をする機会が増えている。オーディオショウなんかに行ったときは自宅の音と差分抽出的に聴くこともあるのだが、それは非常に高いレベルでの比較試聴である。どちらかというと、ハイエンドのレベルに自宅の音がどこまで近づいているのかを判断するためのもの。SHM-CDと通常CDの違いと言うのは、僕の経験上、それほどない。そう書くと誤解を招きそうであるが、現実問題、はっきりいってよくわからないというのが正直なところである。その程度の違いならべつにどちらでもいいかな程度のものもあるし、割と差が出るものもある。しかしシステムを少し入れ替えてみるとまた別の表情を見せたりすることもある。時には評価が引っくり返ることもある。最近かなり気合を入れてやってみたのが、「村治佳織 プレイズ・バッハ」のSHM-CD版とCD版の比較試聴である。どうも聴いていくうちにSHM-CDの方がクリアであるが少し重心が高い、腰高な印象が出てきて、通常CDの方が落ち着いて聴けるので最近は通常版の方を聴いているのだが、きっとブラインドでやると間違う。ただそれはそれぞれ1回ずつ的なテスト形式での話ではあるが。しばらくとっかえひっかえやっていれば違いは見えてくると思う。でもそんなことをしながら気づくのは、自分は音遊びをするために音楽を聴いているのではないということである。何のための比較試聴か。まあ、今後どちらの版を買うかの判断をしていたと思えばまだ実益があっていいのかもしれない。僕としては無難な通常CD版を買う。ただし、Blue-spec CDだけは別である。こちらは品位が上がる方向に向かうようなので、できればこちらで買いたい。ソニークラシカルしか販売しないのがネックではあるが。くれぐれも注意したいのは、先程言った「音遊び」にならないようにすること。最終的には音楽を楽しむのが目的なのだから、別に新素材であろうが従来版のCDであろうが、はたまたSACDであろうが同じことである。

SACDについては違いが分かりにくいなどの賛否両論があるだろうが、CDとSACDの音質差は残念ながら、わずかである。もしかしたらリマスター版のCDの方が違いはあるかもしれない。だからといってSACDに価値がないのかというとそうでもなくて、それは質の高いシステムで両者を比較すると(あるいは、SACD「だけ」聴くと)SACDのよさが理解できると思う。見通しがよく、音の立ち上がりが鋭いが同時にしなやかであり、ホールトーンがよく出る。明晰であり重厚でありながら、わざとらしさがない。そういった特徴は「ちょっと聴き」ではわかりにくいが、繰り返し味わっていると、だんだん頭の中に差が蓄積されていく。そうなったら、「SACDの音のよさ」が語れるようになると思う。普通の人からすれば、どうでもいいほどちょっぴりの差だけども、そのちょっぴりの差を味わうのが楽しいのである。文化というものはそういうものである。まあ、比較試聴の面白さもそこにあるのだが、同時に「音遊び」の危険性も孕んでいる。要は本質をはずさないことである。