風格

昨日はオーディオを評価するうえで
物理特性と個性の違いを認識することが重要だ、
見たいなことを書きました。
その続きです。


ところがですね、実際は物理特性と個性って
分けて考えることが非常に難しいのですよ。
例えば「非常に低雑音、低歪」が個性になっているような
機器だってあるわけだし。
そうなると、オーディオメーカーがどんな指針で
製品を作り上げているのだろうかという疑問が出てきます。


基本的に、(ちゃんとした)メーカーは明確な指針をもってます。
テキトーに作ったらたまたまいい音になった、
なんてことは決してありえません。
オーディオアンプだったら、まずは必要な増幅度がとれること、
そのうえで雑音やゆがみのレベルをできるだけ少なくして
トランジスタの発熱対策や電源部の余裕度を確保することが
重要になってくる。
このへんがアンプとしての物理特性を追求していく部分。
ここまでならどんなメーカーでも、極端に言えば素人でも可能です。
パーツと回路を作成する技術さえあれば。


この次は、音を磨き上げていく作業です。
さらに低雑音、低歪を実現するためにトランジスタや抵抗、コンデンサ
などの電子部品を吟味し、筐体(要するに「箱」)のなかに
どう整理して配置するか。
トランジスタの放熱をよくするには、回路方式や回路のパターンをどうするか、
どんな回路基板を使うか、他の部品に与える影響を少なくできる
レイアウトは・・・というように色々考えます。


ほとんどのメーカーはアンプを作るときはなるべく
元の信号を歪みなく増幅すること、いわゆる「味付けのない」特性を目指している。
だからここまで徹底して完成度を高めようとするのです。
しかしながら、物理特性を高めようとしているように見えるこの過程で
実はその製品の「個性」ができあがっていっているのです。
各メーカーが「味付けのない、無色透明な音」を目指して
オーディオ機器を製作しているにもかかわらず、
音を追い込む過程でメーカーごとに音の差が出ます。
それはすなわち製作者の個性がオーディオ機器に反映されることを意味します。


これが先ほど「物理特性と個性をわけるのが難しい」と言った理由。
そうやって磨き上げたオーディオ機器には、一種の風格めいたものが感じられる。
安いパーツを使って適当な回路で組んだオーディオ機器などが
よい音にならないこともわかってもらえたかと思う。


ここまでが大体100万円程度のオーディオ機器で、
それ以上になるとより製品への思い入れが強くなるオーディオ機器ばかりで、
メーカーが最高と判断する音を表現するフラッグシップモデルが出てくる。
試聴会などに行くと多種多様の「最高の音」が聴けるので楽しいのだ。


ここまでをまとめると、

  • 物理特性と個性の違いは重要だが、実際は製作者の思いが両者を作り上げ、かつ製作者の個性がオーディオ機器に反映される
  • であるから、異なったオーディオ機器は違う音を出す
  • 凝って様々な工夫をするほどコストがかかって大量生産できないので高くなる。ただし製作者にとっての「最高の音」を表現する稀有なオーディオ機器となりうる

ということ。


「新レコード演奏家論」で菅野沖彦氏が書いていたように、
芸術というのはなにか一定の基準となりうる「悟性」が必要なのです。
なんでもいいというわけにはいきません。
ちゃんとした画家が描く絵と素人の絵では、確かに両者ともに個性はあるけど
なんとなく「レベルの違い」を感じるでしょう。
もちろん画力もあるだろうし、表現の豊かさ、細かな配慮・・・
考えられる要素は他にもあります。


オーディオでも同じです。
確かな技術に支えられたものだけが、豊かな表現力を備えるのです。
それはまさに「風格」といってよいでしょう。
簡易オーディオ機器にそれがあるようには僕は感じない。


どうも長々と書いてしまいました。
読んでくれた方、いるならどうもお疲れさんっす。