東京インターナショナルオーディオショウ2008@東京国際フォーラム


今、自宅のオーディオシステムで、会場で手に入れたディスクを聴きながらこのコメントを書いている。
そのとき、ふと、ヤマハのオーディオ誌の宣伝に書かれていたくだりを思い出した。

「尊敬するアーティストは誰ですか?」なんて軽々しく訊けないほどのキャリアを、リスナーとして積み重ねてきたあなたに負けないぐらい・・・

そういえば、自分がそう問われたらなんと答えるだろう?
自分が今目の前で聴いている、すでにこの世にいない過去の巨匠の名盤であるとか、
すばらしく録音された数々の作品に触れることで、このような質問を経験の長いリスナーにすることは、ひょっとしたら失礼なことなのかもしれない。
なぜなら、これほど多くの名作があるなかで、これがいい、とは単純に言えるものではないと思うからである。
ポップスなら割と「好みのアーティスト」というものが存在する。
僕はMr.Childrenが好きであるけども、ゆずがあまり好きではない。
そんな簡単に割り切れるといいのだが、特定の作品に対してたくさんの演奏家が解釈し、演奏している様を見ると、完成度の差云々はあってもそれぞれが入魂の作品となっており、自分ごときがそれに対してこれは好きだ、これは嫌いだ、などと単純な評価をしてしまってよいのだろうか? と思うことが多い。
しかも、演奏の精妙さ、細部への配慮・解釈、作曲家・作品に対する思いへの嗜好は、年齢や経験によって少しずつ、あるいは大きく変化しうる。


逆に言えば、それらを堪能できるオーディオ機器で音楽を聴けることが、どんなに幸せなのだろう。
巷で「高音質」「原音再生志向」などという言葉が比較的手軽に用いられる場面に遭遇するが、音楽再生はそんな単純なものではないと思う。
「高解像力」「定位」「音場感」、これらは音の属性をそれぞれ別個のものとしてとらえているものであって、
完璧なまでの物理特性を持っていたとしても、結果として音楽を愉しめるものでなければ意味がないのである。
果たして「原音再生」がよいのだろうか? 自分は、優れたオーディオ機器とそれを使いこなす技術と感性が融合したとき、「原音以上」の再生ができるものだと信じている。
それはけして自分勝手なやり方で実現できるものではなく、真摯に音楽と向き合い、最高のものを引き出そうとする努力から生まれてくるものではないだろうか。
昨今は手軽に気楽に、が流行なのかもしれないが、本当の感動や喜びは、苦しんで努力してはじめて得られると思う・・・。


前置きが長くなってしまいましたが、いくつか気になったブースについてコメントしておきます。


そういえば、フォーラム周辺になぜが数等の牛(のオブジェ)がありました。
どうやらこんなのやっているみたい。

COW PALADE
http://www.t-i-forum.co.jp/function/news/data/pdf/080901.pdf


アクシス

システム:KRELL

  • SP Modulari Duo
  • SACD/CDP Evolution 505
  • Pre Evolution 202
  • Power Evolution 400×2

オール・クレル・システムによる初試聴となった。
去年もモジュラーリ・デュオのイベントはあったが都合により参加できなかったのと、
ルーメンホワイトの新作(名前なんだっけ?)を試聴しようとしたのだが、どうやら最終日は鳴らす予定がなかったようなので、
とりあえずまだあまり聴いたことのないクレルシステムでの演奏を味わってみた。


一言で言うと、「深々とした音場、ソリッドな低音」だろうか。
こう書くとあまり面白味がなさそうであるが、そんなことはなく、ほとばしるようなエネルギー感、ドラムのアタック音の鋭さ、流麗と言うよりも重厚なオーケストラが見事であった。
音場も広く、とにかく定位が明確で、これぞオーディオの醍醐味なのだろう。凄みを感じさせる、高解像志向の音。
重心が低く、fffでもまったくびくともしないどころか、余裕すら感じさせる。
評論家の三浦孝仁氏が解説しながらの試聴であったが、これこそ氏が追求する音なのだろう。
本人はLAT-1000を使っているので、自宅の音と似ていて安心する、という話をしていた。

TAOC

システム:

オーディオボードやラックなど、アクセサリー部門で多くの優れた製品を生み出している同社であるが、
以前よりスピーカーシステムを積極的に開発し、多くのファンを得ている。
といってもこれもあまり聴く機会がなく(大阪に来ないから・・・)、以前はLCシリーズの音を聴いたが、FCシリーズの音は初めて。


音の印象は、重心の低い、芯のあるしっかりとした音。一つ一つの音を丁寧にじっくりと描くタイプの演奏であり、
どちらかというと、音場間、空気感のような間接音の表現よりは直接音の表現に長けていると感じた。
アクシスのオール・クレル・システムを聴いたあとだったので、余計にその印象が強い。
小型システムのよさが出ていたと思う。ボーカルは中央に定位し明瞭、楽器も輪郭をぼやけさせずきっちり表現する。

タイムロード

システム:

  • SP Ayre C-3 (Raidho Acoustics)
  • CD Transport CODA (Chord)
  • DAC QBD76 (Chord)
  • Pre CPA3000 (Chord)
  • Power SPM1400E×2 (Chord)

オーディオ誌で話題になっている、デンマークRaidho Acousticsのスピーカー。
なんというか心地よい音のするスピーカーである。
同社はブルガリアの風変わりなスピーカーメーカー、EBTBの製品も輸入しているが、それと相通じるものがある。
コードの爽快なハイスピードサウンド、QBD76の奏でる高解像でありながらきつさのない自然な音を聴きながら、うたた寝をしてしまうほどであった。
(実は、昼飯を食った後だから? だったのかもしれないが、そうでもなかったと思う・・・。)
どうやらDAC64MK2が製造終了になるらしい。
後継機種のQBD76は、アップサンプリング機能は当然ながら、USB/Bluetoothによる接続にも対応し、PCを利用しての演奏も可能。
なかなかめずらしい。



他にも気になるところはあったが、それはまた大阪ハイエンドオーディオショウでのコメントに譲ることにします。
ルーメンホワイトの新作や、ビビッドオーディオのG1 GIYA、スネルのIllusion A7など
もう一度じっくり聴いてから書いてみることにする。